福岡高等裁判所 昭和29年(う)1303号 判決
しかし、原判決の挙示した証拠を綜合すると、被告人は肩書自宅で特殊飲食店金海楼を経営しているものであるが、判示日時頃原審相被告人坂本富雄の斡旋で判示Fを同女が年令数え年二十才であること、従前田川郡伊田の特殊飲食店で従業婦として働いていたことのある点を確かめただけで、前借金一万五千円を渡し、同女の衣類や異動証明書は右坂本富雄が二、三日中に持つて来るということで自分の店の従業婦として正式に雇入れ、同女に対し「前借金一万五千円渡しているから今日からは従業婦として一所懸命に働いて早く足を洗うようにしたがよい」と申し向けたこと、Fは化粧道具その他日用品等を買いととのえ、衣類は他の従業婦のものを借用した上、翌日頃から、被告人方で判示の期間四十回位にわたり、仲居の手引などにより氏名不詳の男を客にとつて売淫行為をしたこと、被告人方には当時五名の従業婦が居り、いずれも客を相手として売淫行為をしていたこと、Fは実は昭和十三年三月二十一日生の満十八才に満たない児童であり、しかも被告人方に従業婦として住み込む二、三日前親元を無断家出していたもので警察署に保護願の出されていたものであることを認定することができる。
この事実によると、被告人は十八才未満の児童であるFが被告人方で売淫行為をするについて、その都度直接に、勧誘又は強制こそしていないが、右売淫行為のために使用させる目的で、その部屋や調度等を提供してその便益をはかり、売淫行為をなさざるを得ないように仕向けて淫行をなすに至らしめたもので、被告人は十八才未満の児童をして淫行をなさしめたものであると言い得ることは一点疑を容れない。つぎに前記事実によつて明らかなように被告人はFを雇入れるにあたつても、なるほど、異動証明書は二、三日中に届けさせることにしてはいたものの、ただ同女が数え年二十才で従前田川の方で従業婦として働いていたということを聞いただけで同女を従業婦として正式に雇入れ、翌日から判示のとおり同女をして淫行をさせているのであつて、同女が十八才未満の児童でないことを確認するについて戸籍謄抄本は勿論、米穀通帳、異動証明書などの公信力ある書面による調査の方法を講じた形迹は毫も認められないばかりか、親元への照会もしていないのであるから、被告人は同女が十八才未満の児童であることを知らなかつたとしても、その知らなかつたことに過失がないものとは到底いうことができない。してみれば原審が挙示の証拠により、被告人に対する判示第二の事実を認定判示した上、判示法条を適用処断したのは正当であつて、本件はFが任意に淫行をしたもので、被告人は十八才未満の児童に淫行をさせる行為をしていないという(一)竝びに被告人は同女が十八才未満の児童であることを知らなかつたことに過失はないという(二)の各論旨はいずれも理由がない。
(裁判長裁判官 西岡稔 裁判官 後藤師郎 裁判官 大曲壮次郎)